飼育ガイド 材飼育の魅力について

クワガタ幼虫の飼育方法は、材飼育→マット飼育→菌糸ビン飼育と進化してきました。今では菌糸ビンを用いて飼育する人がほとんどで、続いてクワガタの種類によって発酵マットを使い分けるというかたちです。「材飼育」を選ぶ人はというと、率直に言って、かなり少数派になりました。
しかし、材飼育にも良い点があります。誰も試みなくなったことによって、見過ごされている可能性があるかもしれません。今一度、クワガタの飼育方法の原点である材飼育を振り返り、その魅力をご紹介します。

》もっとも「自然」に近い飼育方法

野外にいるクワガタムシの幼虫は、キノコの菌、中でも「木材腐朽菌」と呼ばれるキノコによって分解が進んだ木材(主に広葉樹)[※1]を食べています。

この腐朽した材=朽ち木を、そのまま幼虫に与えるのが「材飼育」です。もともとは、採集したクワガタ幼虫を手元で羽化させるために野外と同じ環境を飼育下で再現したもので、とても合理的な方法でした。

ただ、クワガタムシの飼育目的が、「野外で採集した幼虫の羽化」という素朴なものから、「累代飼育によって大きな個体をよりたくさん羽化させる」という方向に変わってくると、マット飼育や菌糸ビン飼育のほうが優れた点(省スペースでき成長過程が見える、大型を狙えるなど)が多く画期的だったため、材飼育は次第に忘れられた方法になっていきました。

しかし、材飼育がすべての点においてマット飼育や菌糸ビン飼育に劣っているとは言えません。クワガタが育つ本来の環境=自然状態にもっとも近いのが材飼育[※2]で、その分、過度なストレスを幼虫に与えずにすみます。

たとえば、菌糸ビン飼育はより大型が狙えるのは間違いありませんが、途中の管理が必須で、場合によっては幼虫のまま死んでしまったり、蛹化不全や羽化不全を起こすこともあります。

それに対して材飼育ならではのメリットがいくつかあります。材飼育では羽化不全がほとんど起こらず、背中にくぼみなどもない綺麗な個体が出てきます。使用する材の大きさにもよりますが、ある程度放置でき、サイズを狙わなければ途中交換なしで羽化までもっていくことが可能です。また、大きな材であれば複数頭をまとめて飼うこともできます。

[※1]クワガタムシの幼虫は、キノコによって腐朽が進んだ朽ち木を食べて育ちます。生の木は食べることができません。キノコの菌によってリグノセルロースが分解されていてはじめて、木に含まれるセルロースを栄養として利用することができます。セルロースは木材に含まれる多糖類で、ブドウ糖がたくさんつながった構造をしています。広葉樹の場合、その含有量は42~48%です。
[※2]マルバネクワガタの仲間など、クワガタの種類によっては材ではなくフレーク状になった腐植でしか育たないものもいます。

羽化したであろうタイミングを見計らって材割りしたところ。蛹室は脱出しやすい材の端にあることが比較的多いです。

ひとつのケースで複数の材・幼虫をまとめて飼っていると、最初は別々の材に1頭ずつ幼虫を入れてあっても、1本に集まってきて仲良く並んで蛹室を作っている、ということが結構あります。


これらはオオクワガタの例ですが、材産みタイプのクワガタなら、この方法が使える可能性は十分にあります。
すでに多くの種類で飼育方法は確立されていますが、幼虫の飼育方法がまだよく分かっていない種も、とりあえず材飼育で羽化させることができるかもしれません。

材飼育で羽化したメタリフェルホソアカクワガタ。飼育が難しい種の例ではありませんが、マット飼育が合うこの種も、材飼育で綺麗な個体が羽化してきます。

》セット方法

基本的に、用いる材の大きさによって、収納する容器の大きさが決まります。産卵木のMサイズであれば、プラケース小や小型コンテナボックスが利用できます。

20cmカットの飼育専用材の場合は、プラケース中が最適です。飼育専用材の28cmカットは、大型のコンテナボックスか衣装ケースに複数本を同時に収納することで、スペースを有効に利用できます。

容器に収めた材は、そのまま何もしない(転がらないように下部のみマットで埋める)方法と、埋込マットや発酵マットに埋めてしまう方法があります。

前者は、幼虫が食べ進むにしたがって材の内部が食痕で満たされるようになり、やがて食べ尽くされると変形したり、樹皮を押すと柔らかくなっていて、外からの様子で材の中の状態がある程度分かります。

後者は外から様子をうかがうことができず、途中からマット飼育と同じような状態になりますが、途中で材交換をせずそのまま羽化まで持っていくことも不可能ではありません。

それでは、具体的なセット方法について見ていきます。

材に水を吸わせる
飼育用の材は乾燥していますので、最初に水を含ませます。写真のような方法をとると、適度に加水することができます。
1)容器に材を立てた状態で入れ、底に水を張ります
2)材が水を吸い上げ、無くなったら足します
3)上の木口(切断面)に水が染み出してきたら完了です
セット例1
産卵飼育材20cmカットとプラケース中を組み合わせた例。きれいに収まります。
このあと、容器の底に薄くマットを敷いて転がらないようにするか、マットで材全体を埋めます。
セット例2
産卵飼育材28cmカットと小型の衣装ケースを組み合わせた例。2本同時に収納しています。

この例では、幼虫を材に入れたあとマットで埋めています。
材をマットで埋め込む場合、樹皮は剥いても剥かなくてもよいですが、埋め込まない場合は樹皮をつけたままにしておきます。
幼虫を材に入れる方法
【マットで埋め込まない場合】
ドリルで幼虫が入る大きさの穴を開け、その中に入れてあげます。投入後、穴をすぐにマット等で埋めず、自力で材に潜るか様子を見ます。
穴を開ける位置に決まりはありませんが、木口側が比較的開けやすいです。

2令以上の幼虫は、ちょっと乱暴にみえますが、写真のように材のそばに置いておくと、自力で材の中に潜り込んでくれます。

【マットで埋め込む場合】
材をマットで埋め込んだあとケースに幼虫を入れてやると、そのうち材に潜り込んでいきます。確実に材に入れたい場合は、穴に入れた幼虫が材に潜ったあと、もしくは材の横に置いた幼虫が自力で潜るのを確認してから、材をマットで埋めます。

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