Q&A タランドス、レギウスとハイパーレイシ材

ハイパーレイシ材をタランドス(タランドゥス)やレギウスの産卵用に使うにあたって、お客様からよくいただく質問をまとめました。

Q1.ハイパーレイシ材をセットする際、樹皮はむかなくてよいか?

基本的には、むいてもむかなくても産卵結果はほとんど変わらないと思います。例えば、ハイパーレイシ材の樹皮を半分むいてセットすると、メスはさまざまな箇所から材に潜り込んでいきます。

樹皮をむいたところから入るメスもいれば、むかなかったところから入るメスもいます。そのほか、材の切り口から、上から見えない材の下部からなどなど、要はとっかかりになりそうなところがあれば、どこからでも潜ります。メスの強靱そうな大アゴからもわかりますが、樹皮が産卵行動の障害になることはないようです。

ひとつ注意しなければいけないのは、樹皮を全部むいてしまうと材が乾燥しやすくなる点です。冷暖房によって飼育ケース内は乾燥しがちですので、材の湿度を保つという点では樹皮を全部はがしてしまわないほうがいいようです。また、樹皮を残すことによって、しばらくの間レイシ菌に生きた状態を保たせることができますが、このこともタランドスに産卵を促す効果を持っているのではないかと考えられます。

タランドスやレギウス、オウゴンオニなど材の中に潜り込んで産卵するタイプのクワガタの場合、樹皮に近いところを選んで産卵することもあり、樹皮を剥かないほうがいいときがあります。わざと材を乾燥させて菌の勢いを弱める場合は別ですが、総合的に判断して、通常、樹皮は剥かないことをお薦めしています。

なお、菌糸材は、その名の通り材全体を菌糸が覆っています。樹皮を覆う菌糸を剥がす必要はありませんが、木口(こぐち=材の切断面)を厚く覆っている菌糸の皮膜は取り除いてセットしてください。

Q2.材をマットで埋めなくてよいか?

タランドスやレギウスの産卵の仕方は、オオクワやヒラタなどと比べると、少し変わっています。オオクワガタの場合は材の表面をかじって、あるいは材の中に潜り込んで材の内部をかじって卵が入る穴を作り、そこに産卵します。

対してタランドス、レギウスは必ず材の中にメスが潜り込み、材の内部をかみ砕いてマット状にし、そのマットを押し固めてカタマリ(産卵床)を作り、その中にほぼ等間隔に卵を産み付けてゆく……と、かなり手の込んだ手法で産卵します。

材をマットで埋める意味はいくつかありますが、主なものは材の湿度保持と、メスが落ち着いて産めるようにする、ということでしょう。しかし、タランドスやレギウスの場合、材の中に完全に潜り込んだ状態で産卵しますので、「メスが落ち着いて産めるようにする」という部分はあまり考えなくてもよさそうです。

一方、詳しくは後述しますが、タランドス、レギウスの卵や幼虫は、他種に比べて酸欠に弱いという性質があります。材をマットで覆ってしまうと、メスの潜り込む部位によっては材の中が酸欠になりやすくなって、好ましくありません。

当店でタランドスやレギウスをセットする場合、マットはケースの底に数センチ敷く程度にしています。要は材が転がらなければそれでいい、という具合です。ちなみに、そのマットは、成虫用の管理マットや水苔などでも大丈夫です。

Q3.ハイパーレイシ材の保存期間と保管方法は?

冷蔵庫で保管していただければ、お送りしたときの状態をかなりの長期間(数カ月以上)、ほぼ保つことができます。

お手元に届いてすぐ使われない場合、いちばん望ましいのは冷蔵保管ですが、真夏に常温(冷暗所。クワガタが生きていられる範囲内)で保管する場合でも1カ月程度であれば、そう大きく変化しません。柔らかい材がご入用の場合、常温下で腐朽を進め、ご希望の堅さになってからお使いになる方もおられます。冬場なら、常温=冷蔵庫の中と同じですので、数か月単位でお届け時の状態を保てます。厳寒期は凍結させないようご注意ください。

当店で実際にセットした例ですが、春から夏にかけて常温下に半年置いた材でも、タランドスは産卵しています。特に落ちかけて動きが鈍くなってきたメスに最後の産卵してもらう場合、柔らかい材を与えるとよいようです。

なお、タランドス、レギウスの、材の硬軟に関するストライクゾーンは、かなり広めです。キノコが生えて材に相当な弾力が出ている柔らかい材から、オオクワガタが産卵する程度の硬さのものまで、結果に大差なく産卵しています。

Q4.羽化後、どれぐらいから産みはじめるか?

どの種でも同じことが言えますが、ブリードの成否を左右する最も重要な要素は、メスの成熟度です。オオクワガタのメスに産卵させるとき羽化後半年程度は待ったほうがいいように、タランドスのメスにも適齢期があります。個体により早熟・晩熟がありますが、累代個体(F1、F2)を見ていてほぼ全てのメスが産卵できるようになる時期は、おおむね羽化後8カ月目ぐらいからと思われます(中には半年後ぐらいから産み出すメスもいます)。

もし、メスが成熟していて交尾待ちということであれば、さっそくペアリングしましょう。羽化後8カ月程度たっていれば、メスが性的に成熟してると考えられますので、数日から1週間程度のペアリングで、通常、交尾が完了しているはずです。オスによるメス殺しを防ぐため、ペアリング中はエサが切れていないか普段以上にチェックし(同種はクワガタ界で一二を争う大食漢です)、木切れやマットなどを置いて、メスが逃れることができる場所を作っておきます。

一方、 なかなか産卵行動に入らない場合、たとえばセットしてから1週間程度たっても材に潜らないようであれば、一旦、材からメスを離し、しばらく様子をみたほうがよいでしょう。すでに交尾済みであれば、オスから危害を受けるのを避けるため、メスは別にしておくほうが無難です。

Q5.材に潜ったら、必ず産卵しているの?

残念ながら、必ずしもそうとは言えません。まったく成熟していないメスは材に潜ろうとしませんが、産卵には至らないにもかかわらず、材に潜ってゆくメスもいます。それが産卵行動であるかどうかは、次のような点である程度判別できます。

●産卵しているケース
初めてハイパーレイシ材を与えたところ、1週間以内に材に潜った。潜った箇所にメスが切り出したオガコがたくさん見え、しかもメスはもぐったまま出てこない。餌を食べている形跡もなく、なかなか出てこないと思っていたら、メスが開けた穴の入り口に姿を発見。他のメスが入ってくるのを阻止するように、自分自身の体で穴を塞いでいる。

→入手したタランドスが性的に成熟していて交尾済みなら、ハイパーレイシ材を与えた数時間後から材をかじりだし、翌日にはすっかり潜っていることさえあります。材に潜って1カ月後には初令幼虫が回収できるはずです。

●産卵していないケース
材に潜るものの、穴だけあけて出たり入ったりする。穴の中はスカスカの空洞になっており、オガコが詰まっていない。材をバラバラにしたりもする。

→産卵できる時期が近づいてくると、タランドスやレギウスのメスは与えた材に「擬似的な産卵行動」を取ることがあります。仮に材に穴を開けただけで産卵していなくても、諦めてしまうには早いです。その状態は産卵できる時期が近づいてきていることを示していますので、しばらくたって再セットすれば、きっと産卵してくれるはずです。

Q6.卵や幼虫が落ちてしまうことがある。解決する方法は?

ときどき、タランドゥが材の中で卵で落ちてしまったり、孵化直後に落ちてしまっていたりします。お客様から「レイシがタランドスに合っていないのではないか?」「材の含水量が多すぎるのでは?」「成虫由来のダニのせいでは?」といったご質問をいただくことがありますが、当方の手元ではそのいずれに対しても反証となる例(※後述)が観察されており、結論から言えば、落ちてしまう基本的な原因は「酸欠」にあると考えています。

産卵が済んだメスは通常、潜り込んだ場所やそれ以外の場所に坑道をあけ、外部から見える形でじっとしています。この状態は、別のメスが侵入することを防ぐとともに、材の中に作られた産卵床への空気の流通を確保しているように見えます。こういうときはほとんどの場合、産卵後の経過が順調で、産卵開始から1カ月ほどして材割りをすると中からきちんと幼虫が出てきます。

一方、材の中で卵のまま、あるいは孵化直後に落ちてしまっているケースをよく観察すると、共通する点が見つかります。具体的には、潜り込んだ箇所が削りだしたオガコで埋まったままになっている、潜った場所が材の下部でマットで隠れてしまっている、などです。

タランドスやレギウスは、卵から蛹までのすべてのステージで酸欠に弱い傾向があります。レギウスは、タランドス以上に繊細な感じがします。この点に留意することが、タランドス、レギウス飼育上の最大のポイントです。

材の中が何らかの形で「密閉」されていた場合、そのまま放置していると、卵や孵化直後に落ちていたりしますので、詰まった坑道からオガコを取り除いてみるなど、材の中と外との空気の流通が悪い状態を改善してやる必要があります。

また、酸欠によるリスクを回避するため、卵で取り出すという方法もあります。その際に重要なのは割り出すタイミングで、産卵を開始してから1週間程度で割り出すことが必要です。産卵後、材の中が酸欠気味の状態で長く放置されていた場合、たとえ卵で取り出したとしても孵化しないことがあります。

写真左:タランドスの卵。写真右:プリンカップと湿らせたティッシュで管理しているところ。孵化するまでこの状態で管理します。


卵で取り出し孵化した幼虫は、よく熟成した微粒子マット(当店の商品では「ウルトラマット」)で2週間程度管理し、初令中期に達してからカワラ菌糸ビンに移せば大丈夫です。また、菌糸ビンで幼虫を飼育する際も、特にはじめて菌糸ビンに入れたあと幼虫が落ち着くまでの1週間ほどの間、空気の流通に留意してやると落ちる率がぐっと下がります。


※反証となる観察例
1)レイシが合っていない→レイシ(マンネンタケ)の菌床で成長し、羽化する
2)含水量が多い→材割りをしたあとの断片を指で強く圧迫すると水がにじむ程度の含水率の高めの材で、産卵、孵化、成長が確認できている。ただし、水分が高いままずっと放置するのは、順調な成長という点では好ましくありません
3)成虫由来と思われるダニが付着した幼虫が問題なく羽化

Q7.そのほかのご質問

ハイパーレイシ材をセットするとき、材に加水する必要は?
培養の際、十分な水分を材に持たせていますので、再度水に浸す必要はありません。培養が完了したのちに出荷しますので、袋から取り出した状態ですぐお使いになっていただけます。
材は一度に何本セットするのが妥当か?
セットする数は1本ずつで十分です。タランドスやレギウスは、他のクワガタのように産卵木を渡り歩いて同時に複数の材に産卵するという行動があまり見られません。上述したように、産卵が終わったメスは自分が開けた穴の入り口でじっとしているという姿がよく見られます。2本入れておいても1本は無駄になる可能性が高いです。

じっとしているメスは放っておいてもそのままなので、効率的に複数回産卵させたい場合は強制的に取り出して次のセットに入れてやります。

「ハイパーレイシ材M」や「ハイパーレイシ材L14SE」は1袋に2本入っていますが、1本が余った場合は、袋に入れたまま冷蔵庫で保管してください。一度開封するとかびやすくなるので、この場合は冷蔵庫での保管をお薦めします。ただ、産卵セットすると多少のカビは生えるものですし、極端でないかぎりあまり問題になりません。
基本的なセットサイクルについて
産み始めたメスは、次のようにセットすると何度も産卵してくれます。

●第1回目のセット
(材に♀が潜って1カ月目)
  ├──┬─[割出]→初令幼虫→カワラ菌糸瓶へ
  │  or
  │  └─[保管](+1カ月)→[割出]→2令~3令初期
 [メスを材から離す]              ↓
  │メスは2回目のセットへ         カワラ菌糸瓶へ
  ↓(休養。再ペアリングも)
●第2回目のセット
  │
  │(繰り返し)
  ↓
●途中、休養をはさみながら複数回セットが可

タランドスはかつて、初令で取り出すと落ちやすいと言われていましたが、初令中期以降であれば、カワラ菌糸ビンを使うと問題なく成長します。2令幼虫を取り出したいときは、メスを離してからさらに半月~1カ月弱保管したのち割り出します。

また、孵化直後や脱皮直後に取り出した幼虫は、完熟した発酵マットでしばらく育て、腐植を十分体内に取り込ませてからカワラ菌糸ビンに入れます。
産卵させるにあたって適温は?
おおむね20度強から30度未満の範囲内であれば、同じように産卵しています。当店でのブリードの例では、夏場は30度以下、冬場は22度に設定した飼育室にて、年間を通じて産卵します。

幼虫の成育適温は国産のクワガタよりも狭く、上は30度以上、下は10度以下の環境がしばらく続くと落ちてしまうようです。冷房や暖房をかけて室温を調整しないといけない時期は、クーラーやヒーターのダウンに注意が必要です。
レイシ材とカワラ材では、どちらのほうがよいか?
レイシ材とカワラ材では、どちらのほうがタランドス、レギウスに向いているかというご質問をときどきいただきます。ハイパーカワラ材にも産卵しなくはないのですが、産んだり産まなかったりと、あまり安定していません。「タランドスやレギウスには、どちらが良いか?」とのご質問には、迷わず「ハイパーレイシ材」をお薦めしています。

蛇足ながら、以前、あるところでレイシ材の特徴を持った材が写真とともに「カワラ材」として紹介されていたり、「レイシのカワラ材」という言い方でご注文いただくケースが過去に何度かあったりなど、レイシ材とカワラ材の区別が今ひとつ浸透していない時期があったように思います。少なくとも当店での実績、および多数のお客様からのご報告では、カワラ材よりレイシ材のほうに軍配が上がっています。

Q&A タランドス、レギウスとハイパーレイシ材